カンファレンスを女性にとってよりセーフなスペースにするための方法
Eugene Yokota、Yifan Xing 著
訳註: 本稿は making conference a safer space for women の日本語訳で、インシデントの発生頻度など一部日本のカンファレンス事情と合致しない部分もあるかもしれません。
まとめ
技術カンファレンスにおける女性の参加率 (やその他のバックグラウンドを持つ人の参加率) を改善するには、周辺のカルチャーを変えていく必要がある。そのためには以下の 2点に関してハッキリとしたシグナル化とコミュニケーションを必要とする:
- カンファレンスで女性参加者をナンパするのはダメ
- 技術的な能力を前提として、女性参加者とプロフェッショナルかつ対等に接する
これらは全てのカンファレンスにおいて基調講演の前と、社交タイムの前に繰り返し連絡されるべき事項だ。
大本の問題は保持
国内外の Scala 関連の技術カンファレンスに行ったことある人はスピーカーや出席者の大半が男性であることに気付くだろう。近年はこの問題に関する意識の向上から、女性のスピーカーや参加者も徐々に増えてきている気がする。
今年の Reactive Summit での Diversity and Inclusion パネルにおいて Google 社シニア・エンジニアリング・マネージャーの Tara Hernandez さんが
多くの人が採用パイプラインについて愚痴を言うが、大本の問題は人材の保持だ。
と解説していた。つまり、女性を探してくるのが問題なのではなく、採用後保持できるかが問題だということだ。
同様の原則が Scala コミュニティーにも当てはまるのではないだろうか。つまり、我々が女性 (やその他のバックグラウンドを持つ) メンバーをキープできなければ、長期的に大きな増加が見られないだろうことは自明だと思う。
君かわいいね…
世界中のカンファレンスに出席しているけども、残念ながら以下のような話は絶えない:
- 女性をナンパしようとする男性
- 女性のしぐさを読み違って会話の内容が技術的であるのに他の人 (や自分) に気があるのではないかと勘違いする男性
- 同意なしに不適切な身体的接触を行う男性
- 女性は男性参加者の同伴者であると前提する男性
- その他女性のテクニカルなスキルを見くびる男性
Scala のカンファレンスでこのようなことが起こっているのかと驚くかもしれない。僕が話したことのある女性たちによると、これらのインシデントはほとんどの女性技術者に「かなりの頻度」で起こってるらしい。もし今まで知らなかったのならば、女性プログラマーや女性科学者とあまり話したことが無いか、その人たちが信用していないからなのかもしれない。分かってもらえたとしたら、問題の解決にも貢献してほしい。
「ま、多少いいじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、女性の参加者や講演者の立場になって考えてみよう。その人は (あなたと同様に) 技術的な知識を持っていて、技術的なアイディアをやりとりしたり一緒に習うためにカンファレンスに来ている。その人はトークの準備などに何週間もかけているかもしれない。普段どおりワンピースを着て参加する。その人は興味深い質疑応答を得て、今まで知らなかった人と出会えたことを嬉しいと思っている。
- シナリオ1: 居酒屋でお酒の入った社交タイムになる。一日中黙ってた訳の分からないヤツが突然現れて「君かわいいね… この後どっか行かない?」と言ってきた。
- シナリオ2: 他の人と同様に、ネットワーキングの一環として色んな人と会話を始める。フレンドリーさを出すために冗談にも笑ってあげる。会話の後で言われたのは「君は軽いね」「もしかしてリクルートしようとしてる?」
答えは「ノー」だが、気分は落ち気味か最悪かのどっちかだ。「ここは安全スペースなんかじゃなかった。何考えてたんだろう、わたし?!」(このようなインシデントを報告するかしないかにはさらに複雑な心理的ジレンマやトレードオフが関わってくるが、ここでは割愛する)
しかし、本来はこれは女性参加者の問題であるべきでは無いはずだ。
カルチャーの形成
どこで最初に聞いたのかは忘れたけども、色々な場面でよく思い出す引用がある:
カルチャーとは、人やシステムが促進したり、反対したり、大目に見る振る舞いの長期的なパターンだ。
これは、カルチャーがお互いに促進しあうこと (「思いやり」など) の集合だけではなく、絶対に行わないことの集合でもあることを意味する。
もし僕たちが集団として技術カンファレンスへの女性の参加を改善したければ、まず最初にできることは一緒に「ノー」と言って、それをシステムとしてコード化することだ。
「マジで、カンファレンスでナンパとかしないから」と思う人もいるかもしれないが、それは的を射ない。僕たちが行わなくてはいけないのはベル・カーブ全体を動かして、全員が理解することだ。これは、技術カンファレンスやオープンソース文化へ新しく入ってくる人も含む。
ScalaMatsuri 行動規範
増えてきていたハラスメント事件の報告などを受けて、人に言い寄ること、つまりナンパ行為などをカンファレンスと関連イベントで禁止することを 2015年に提案して、その提案は他のスタッフの承認を得ることができた。
以下は、ScalaMatsuri 2019年版の行動規範における「ハラスメント行為」の最初の例だ:
ハラスメント行為の一例には以下のようなものがあります:
- 他の参加者に対するナンパ行為 (容姿に関する発言、恋愛・性的興味を目的とした発言) や不適切な身体的接触を行うこと
多くの Feminism Wiki 由来の行動規範同様に、これも「多様な背景を持つ人々が参加する技術カンファレンスにおいて、そこで交わされるコミュニケーションは技術的な発表と交流の場に相応しいものであって欲しいと願っています。」から始まり、多分これが一番重要な文だと思う。嬉しいことに、Reactive Summit と Scala Days の 2カンファレンスは ScalaMatsuri スタイルの CoC を採用していることも付記しておく。
執行よりも予防
これをルールとして採用するのは良いことだが、それだけでは役に立たない。ルールは啓蒙プロセスの一環となって命を与えられる。スタイリッシュな Virgin Atlantic や Virgin America の機内安全ビデオにインスピレーションを得て、CoC を紹介する動画を作ってはどうかと提案した。アーティストのひなた かほりさんと ScalaMatsuri スタッフが絵コンテを起こして、CoC 動画が作制された:
Code-of-Conduct video at ScalaMatsuri 2016 参照。
キャラデザインのときに気をつけたのはバイキンマン、モンスター、ジャイアンというような明らかな悪役を避けたことだ。誰しもが偏見とか差別的な種となるものを持っていて、マジョリティ・グループは往々にして逆側がどう感じているかを意識していないことが多いという考えを取り入れたかったからだ。
動画のストーリーの一部として猫くんが女性参加者をナンパして一緒に写真を撮ろうとする。レフリーが笛を吹いてレッドフラッグを出して、うさぎさんがカンファレンスにおいてのナンパ行為は禁止されていることを説明する。
これは、航空会社が離陸時にはシートを元の位置に戻すことを説明するのと同様に考えるべきだ。これは離陸のたびに毎回航空会社から説明が行われる。以前に飛んだことがあれば、この情報は常識かもしれないが新しい人のために説明は毎回行われる。実際に頻繁に飛んでいる人は知っていると思うが、実際には結構な割合の人が離陸時にシートを元の位置に戻していなくて、フライトアテンダントに注意されている。20人に1人ぐらいいるんじゃないだろうか。
直感に反するかもしれないが、マジョリティー・グループ (この場合男性) がむきになって聞き耳を持たなくならないように悪役に仕立て上げないというのは大切だ。シートを元の位置に戻さなかったからといって即飛行機から降ろされないように、一貫して断固とした対応をする必要があるが、血祭りにあげないことも必要だ。
カンファレンスのオーガナイザー
カンファレンスのオーガナイザー向けにいくつかコツのようなものを挙げておく。
行動規範が以下の点をカバーするようにする:
- 他の参加者に対するナンパ行為 (容姿に関する発言、恋愛・性的興味を目的とした発言) や不適切な身体的接触を行うことの禁止
- 技術的な能力を前提として、女性参加者とプロフェッショナルかつ対等に接する
- このポリシーは基調講演の前と、社交タイムの前にハッキリと連絡する。
- ハラスメントの報告を受け取るプロトコルを確立する。最低1名の女性スタッフをハラスメントの報告の連絡先として置く。ハラスメントの報告は非常に勇気がいることなので、全ての報告を慎重に受け取る。言い訳を作って報告をそらさないようにする (「xxさんは酔ってたんじゃないでしょうか」)。
- 他のカンファレンスのオーガナイザーと話してみる。カンファレンスでの多様性の向上や、参加者の安全のための取り組みについて意見交換を行う。
スポンサー、スピーカー、参加者
技術カンファレンスのスポンサー、スピーカー、参加者ならば、カンファレンスのオーガナイザーに対してナンパ行為に関するポリシーを明記することを要求するべきだ。もし聞かれたら、ナンパ行為を禁止することを推奨しよう。一緒に「ノー」と言って、女性がプログラミングオタクとして普通に参加できるプロフェッショナルなスペースを構築することを目指そう。
もし誰かが魅力的だと思ったら、それは口には出さないでほしい。代わりに JSON パーサー、圏論、自律走行、暗号通貨の話を振ってみよう。